ざきログ

Zakki Log - つらつらと、気になることを綴ってみます -

タイ語における文語と口語と外来語

せっかくタイ語の単語を覚えたものの、その努力が報われない時もある。たとえどんなに苦労して覚えた単語でも。間違って覚えたわけではないのにだ。今は使用されない古い単語というわけでもないのに。

タイ人との会話の中で、ある単語を使ったとする。しかし、相手のタイ人は、同じものを指すのに聞きなれない単語使ってくる。こういう場合もあるのだ。

そのような時、どう思うだろうか。「えっ、もしかして間違えて覚えていた?」と不安になるかもしれない。あるいは「あの単語集、間違ってるじゃん!」と憤慨してしまうかもしれない。

タイ語を勉強していけば、こういうことも起こり得ることを心しておいた方がいいだろう。

 

 

会話で使われないタイ語

「水族館」は、タイ語で「พิพิธภัณฑ์สัตว์น้ำ(ピピッタパン・サト・ナーム)」である。市販の単語集にも載っている、言わばタイ語学習にとっては基礎的な単語であろう。

今は知らなくても、タイ語をある程度勉強した人にとって、この語を覚えるのは難しいことではない。

「พิพิธภัณฑ์(ピピッタパン)」=「博物館」

「สัตว์(サト)」=「生き物」

「น้ำ(ナーム)」=「水」

で、「水の生き物の博物館」=「水族館」ということになり、3つの単語を知っていれば、連想してすぐに覚えられる語だからである。

しかし、タイ語の勉強を始めたばかりの人にとり「พิพิธภัณฑ์สัตว์น้ำ」という語を覚えるのは容易なことではないだろう。ちょっと長めの語ということもあり、油断をしたら瞬く間に忘れてしまう単語ではないだろうか。何度も発音し、何度も書いて、やっと覚えるという、意外と苦労する単語である。

しかし、せっかく苦労して覚えたこの「พิพิธภัณฑ์สัตว์น้ำ」という語であるが、その苦労は報われない可能性もあるのだ。もしかしたら一生の内「พิพิธภัณฑ์สัตว์น้ำ」という語を耳にすることは全くないかもしれないのである。

なぜであろうか? 「พิพิธภัณฑ์สัตว์น้ำ」という単語は古い語で、もう使われていないからという理由だから?そんなことはない。今も使われている語である。

「พิพิธภัณฑ์สัตว์น้ำ」という語を耳にすることがないかもしれない理由。それはタイ人は水族館のことを「พิพิธภัณฑ์สัตว์น้ำ」と言わないからである。少なくとも若いタイ人に限れば「พิพิธภัณฑ์สัตว์น้ำ」という語を使用しない可能性がかなり高くなるのだ。

 

タイ語の文語と口語

会話で使用される外国語

それではタイ人は「水族館」のことを何と言うのだろうか?

「อควาเรียม」という単語を使うのである。読み方は「アクワーリアム」。つまり「aquarium(アクアリアム)」という英語の単語から借用した語を使うのである。

「พิพิธภัณฑ์สัตว์น้ำ」だと思っていたのに「อควาเรียม」を耳にした場合、タイ語学習者にとっては、かなりの混乱が生じる可能性があるだろう。

まず「aquarium」という英単語を知らなければ理解できない。それに、たとえ「aquarium」という語を知っていたとしても、タイ人の発音が英語ではなくタイ式になっているので、「อควาเรียม」と「aquarium」を即座に結びつけるのは困難だからだ。

水族館を「アクワーリアム」というタイ人であるが、別に、「ピピッタパン・サト・ナーム」という語を知らないわけではない。

ある若いタイ人に、「ピピッタパン・サト・ナーム」ではなく、「アクワーリアム」を使用する理由を聞いたところ、その答えは「ピピッタパン・サト・ナームは長いから」というものであった。

 

文語で使われる本来のタイ語

会話では使われないかもしれない「ピピッタパン・サト・ナーム」だが、タイ語を読むという観点からは、目にする可能性が高くなるかもしれない。

Googleで検索したところ、「พิพิธภัณฑ์สัตว์น้ำ」の方が「อควาเรียม」よりも検索される数が多いという結果であった。

しかし、このGoogleの検索結果をどうとらえるべきなのかは一考する必要がある。「やっぱりピピッタパン・サト・ナームの方が正しかったんだ!」と素直に喜ぶことはできない。

「水族館」を意味するタイ語の単語を覚える際、タイ語学習者は会話用に「อควาเรียม」、読解用に「พิพิธภัณฑ์สัตว์น้ำ」の2つの単語を覚えておかなければならないからだ。

 

外来語が使われる事例

苦労して覚えたのに会話ではほとんど使われないという言葉は他にもある。「水族館」と同様、会話では英語からの借用語が使用されるためだ。

例えば、「デザイン」という単語もそうです。正式に「กานออกแบบ(カーン・オーク・ベープ)」と覚えても、会話では「ดีไซน์(ディーサイ)」の方が使用される可能性の方が高い。タイ人によっては、カーン・オーク・ベープという語を使用した時に、「ディーサイっていうんだよ」と、笑いながら教えてくれるかもしれない。

 

文章で使用される外国語

英語などの外国語が使用されるのは、会話だけではない。文章に使用されることもある。特に広告などに使われることが多い。

日本でも訳の分からない外国語を使用するケースが多いが、日本語にはカタカナという便利な文字がある。そのため、意味は分からずとも外国語を使用しているのだと判断できる。

一方、タイ語においては、外国語を使用する場合でも、あの蛇のような文字を使って表記される。タイ語学習者にとっては、非常に厳しいものがある。

ルー大柴がしゃべるような、タイ語と英語が混ざり合った文章は、読解が非常に困難だということは容易に想像できるだろう。まず、ある単語が、タイ語か英語かを判別しなければならないからである。

それでも英語ならまだましです。馴染みがあるからです。タイの広告ではフランス語を始めとする英語以外の語を使うこともある。そのような語は辞書に載っておらず、ネットで調べても分からない場合が多く、こうなるとお手上げである。

 

タイ語学習の際は現実を直視する

母国語に固有の単語があるのにもかかわらず、英語やその他の言語から借用した単語を使用するというのはタイだけの現象ではない。日本でも相当な数がある。むしろ、日本の方がひどい状況かもしれない。

外来語が使用されるのは「固有のタイ語が長いから」ということもあるだろうが、その理由は様々だと想像します。単純に「かっこいいから」という理由で外国語を借用しているケースも多いのではないのではないかと想像できる。

タイ語学習者にとってはややこしいことこの上ないが、これが現実である。「全くタイ語ってやつは!」と憤りを感じるのも理解できるが、ここは素直に現実を直視し、タイ語固有の言葉と、タイ語風発音の外国語の借用語、この2つを地道に覚えていくしかないのであろう。