タイ語の発音で難しいのは声調、そして有気音と無気音の区別だろう。
声調に関しては慣れの問題で、読み書きしていれば正しい成長を自然に使えるようになるが、有気音と無気音はかなり難しい。
もう1つ問題なのが、タイ語には発音のあいまいさがあることだ。
「sure」なのか「เชื่อ(チュア)」なのか?
こんな経験があった。
タイ人の女性と話している時に、話の相槌のつもりで「จริงหรือ(チン・ルー)」と言った。「チン・ルー」とは「本当に?」といった意味で、英語なら「Really?」に相当する。
「チン・ルー」の返事として、彼女は「シュア」と答えた。彼女の言った「シュア」というのは英語の「sure」のことだと認識した。タイ語で「本当に?」と聞かれ、英語で「本当よ」と返したわけで、話の流れとしてはつじつまが合う。
タイ人も大学を卒業していれば英語を理解できるし、外国人と話しているので少しは英語を混ぜているのだろうと、あまり気にはしなかった。
しかし、このようなやり取りを何度かする内に、彼女の言っている「sure」とは「เชื่อ(チュア:信じる)」なのではないかと疑問に思い始めた。
タイ語の「チュア」なら「信じなさい」という意味で、会話の中なら「本当よ!」とか「信じてよ!」といった感じになる。まさに英語の「sure」と同じような意味合いとなる。
結局、彼女の言う「シュア」は英語の「sure」ではなく、タイ語の「เชื่อ」であった。
外国人観光客が多いタイでは、「เชื่อ」も「sure」も使い得る場面が少なからずあるので、タイ人が「シュア」と言ったら、タイ語の「เชื่อ」なのか、それとも英語の「sure」なのか混乱する可能性もあるわけである。
「ชอบ」の発音は「チョープ」か「ショープ」か?
タイ語で「~が好き」という語は、「ชอบ(チョープ)」であるが、いつも頭を悩ませるのは、この語の中の「ช」の発音だ。
たいていのタイ語の教材では、この「ช」は「チョー」としている。
しかし、実際にタイ人が「ชอบ」と発音するのを聞くと、これがまた様々なのだ。
しっかりと教科書的に正しい「チョープ」と発音する人もいれば、カタカナで表記すれば「ショープ」になってしまう人もいる。かと思えば「チョープ」と「ショープ」の中間のような発音をする人さえいるのである。
また、同じ人が発音しても時と場合により「チョープ」に近い音になったり、「ショープ」になったりと、全然一定しないこともある。
タイ人が発音する「ชอบ」は頻出単語でもあるので、慣れない内は本当に戸惑うことだろう。
タイ人は「チョ」と「ショ」の音を区別できないのでは?
タイ人の「ชอบ」の発音のあいまいさから、1つの仮説を持った。
その仮説とは、タイ人は「チョープ」と「ショープ」を聞き分けられないのではないかというものである。
つまり、タイ人の脳内では、「チョ」と「ショ」は同一の音として処理されてしまうのでないか、ということだ。
これはあり得る話である。母音数の少ない日本語を母国語にする私たちも、英語の異なる「ア」の音に近い母音を全て「ア」として処理してしまいがちである。
この「ช」の発音に関し、アマゾンで面白いものがあった。
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この商品の内容紹介では、次のように書かれている。
タイ文字の「象」の発音を「ち」ではなく「し」で教えています。理由は
「象」と「し」の関連性は62.5%ですが「象」と「ち」の関連性は50%だからです。言語学的には
「象」の発音は有気無声破擦後部歯茎と前舌
「し」の発音は有気無声摩擦歯茎と前舌
「ち」の発音は無声破擦歯茎と前舌(有気も無気も可)
だから「ち」の有気パターンだけが通じます。無気パターンは「皿」に聞こえます。
タイ人は摩擦や破擦音のことはあまり分かりませんが有気か無気音かはすぐに分かります。
だから僕は「象」を「ち」ではなく「し」と教えます。
多くの本では「象」が「ち」と書いている理由に関してはこう思います。
この商品に関して、カスタマーレビューは賛否両論のよだ。
専門的なことはあまり分からないが、自分の経験から「チョー」と「ショー」の間の音が使われているのは事実であり、それでもタイ人の間では意思疎通に問題がないようなので、やはりタイ人にとって2つの音は同じ音、あるいは言い間違えても許容できる程に近い音なのではないかと思う。
タイ人に聞き取りのテスト
タイ人と話す時、「ช」が含まれる単語を意図的に「チョ」と発音したり、「ショ」と発音したりして相手の反応を見ることがある。
しかし、2つの発音により、タイ人の反応が変わることない。おそらく、自然に同じ音として聞き取っているのだろう。
タイ語学習者としては、この「タイ語の発音のあいまいさ」に関し、多少の注意が必要となる。
「ช」の発音について、話す時はどちらかに統一しておけばよい。しかし、聞くことに関しては、2通りの音を同じ音と認識しなくてはならないからだ。
「ชอบ」が「ショープ」と聞こえても、決して驚いてはいけないのである。