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八百長まみれのFIFAワールドカップ

サッカーというスポーツは、なかなか点が入らない。ほぼ試合を支配していたにもかかわらず、一発のカウンターで負けることもある。時には誤審のようなPKのせいで負けることもある。

日本サッカーのトップリーグであるJ1リーグでは年間約300試合が行われるが、審判の誤審のような判定で勝敗が決まってしまったという試合は、年間を通せば数試合はあるものである。そのような試合の後では、「八百長だ!」とか「審判買収だ!」などと騒がれるが、本当に八百長などがあったのかは分からないし、安易に決めつけるものでもないだろう。

 

「黒いワールドカップ」の衝撃

Jリーグの試合はtoto(スポーツ振興くじ)の対象となっており、ある意味ギャンブルでもある。そのため、八百長などの不正行為があったら、その関係者は倫理的な懲罰だけでなく刑事罰を受ける可能性もある。 

重い懲罰があるので、Jリーグには八百長はないと信じたいところだが、2016年5月3日の日本経済新聞で「サッカー賭博、八百長疑惑はいたちごっこ」という記事が掲載された。

  www.nikkei.com

 

この記事では、八百長の疑いのあったJリーグの試合について下記のように書かれている。

 

Jリーグは2010年に世界の賭博市場を監視するスイスのモニタリング会社、EWSと契約。14年には広島―川崎戦で賭け金の動きに異常があったため、試合後、EWSから「八百長の可能性がある」と警報が届き、騒ぎになった。Jリーグが両チームの社長、強化責任者、監督、選手らから聞き取り調査をし、「不正なし」と判断した。

 

Jリーグには八百長はないと信じたいが、デクラン・ヒル(Declan Hill)著の「黒いワールドカップ(原題:THE FIX SOCCER AND ORGANIZED CRIME)」ではサッカー界の八百長の実態を暴いている。

 

黒いワールドカップ (現代プレミアブック)

黒いワールドカップ (現代プレミアブック)

 
 

「黒いワールドカップ」はかなり分量がある本なので、下記の「W杯を"食い物"にする八百長フィクサー」という記事で概要をつかむことができる。

 

gendai.ismedia.jp

 

この本の日本語版序文には次のようなことが書かれている。 

 

日本いる読者の皆さんがショックを受けるのは分かっている。特にオリンピックの日本代表チームが関係する試合で八百長しようとしたことについて、フィクサーが語っているからだ(ただ日本選手は無関係だと強調したい)。だがこれは国際サッカーの中心にある真実なのだ。

 

これは2004年に行われたアテネオリンピックの日本対ガーナの試合のことを指している。そして、著者がタイの八百長フィクサーから聞いたこととして、本文の中で次のように書いている。

 

日本がガーナに勝てると思うか?冗談だろ、ガーナはいいチームだ。ある選手がいて、私は彼に1万5000ドル(約140万円)を支払った(前払いで)。私から賄賂を受け取る奴かどうかはすぐに分かる。彼らが私に会ってもいいというなら、それは賄賂を受け取るという意味だ。あの試合は八百長するのに総額で55万ドル(約5200万円)かかった。

 

タイの八百長フィクサーはオリンピックの日本対ガーナ戦で、総額55万ドルでガーナに八百長を持ちかけというのだ。

この試合は1-0で日本が勝っている。実際に八百長があったかどうかは確かめるすべもない。八百長フィクサーの言葉を信じるかどうかだろう。

しかし、事実だとしたら、たとえ日本代表側が知らなかったとしても、非常にショッキングなことである。

 

八百長で崩壊したサッカーリーグ

1989年にマレーシアとシンガポールのサッカー協会は、両国の代表チームのレベルを上げるため、マレーシアのサッカーリーグにシンガポールのチームが参加するという形で新しいサッカーリーグを設立した。このリーグには外国人のスタープレイヤーも参加し、5万人以上の観客がスタジアムに来るほどであった。

このマレーシア・サッカーリーグの人気が高まるにつれ、不幸なことにギャンブルとしての側面が注目されることになった。サッカーの試合結果に賭けるギャンブラーが増加したのだ。そのため、八百長フィクサーが、この新設されたサッカーリーグに入り込んでいくようになってしまった。マレーシア、シンガポールともに賭博は禁止であるので、アンダーグラウンドの賭博である。その結果、八百長フィクサーは莫大な金をギャンブラーから巻き上げた。

その結果、成功したかに見えたマレーシア・サッカーリーグは1994年に当局の取り締まりを受け、多くの逮捕者を出し、崩壊してしまった。

この時代、マレーシア・サッカーリーグでフォワードとして活躍したスコット・オーレンショー選手は、八百長には関わってはいないが、八百長の実態を次のように語っている。

 

いつも噂になっていたが、基本的にはリーグに所属するチームの半分は八百長に関わっていて、残り半分だけが本気で試合に臨んでいた。

 

調査によるとサッカーリーグで行われた試合の80%以上が八百長だった。1989年に設立されたマレーシア・サッカーリーグは、八百長フィクサーのせいで1994年に崩壊してしまった。

 

世界に飛躍する八百長フィクサー

サッカー賭博に味をしめた八百長フィクサーは、アジアから世界に進出することになる。賭博が目的の八百長に関わるフィクサーはアジア系が多い。

「黒いワールドカップ」の著者、デクラン・ヒルはアジア系八百長フィクサーの何人かに取材を行っており、八百長を仕組んだ試合についても話を聞いている。そこでおそらく中国系であろうチンという八百長フィクサーの1人からブンデスリーガで八百長が行われることを知らされる。

 

ドイツのトップリーグはブンデスリーガと呼ばれ、実際の「国内最高リーグ」だ。2005年11月26日、ハノーバーはブンデスリーガの試合で、カイザースラウテルンと対戦していた。チンは試合直前にハノーバーが2点差以上の得点差で勝利すると主張していた。彼は選手のネットワークか、もしくは審判か、どちらに八百長を仕組んだのかは明らかにしなかった。だが取材の過程で「ドイツの審判には何人か悪い奴がいる。アメリカやギリシャ、その他多くの国で、私のために仕事をする審判がいる」と語っていた。

 

この日のハノーバーとカイザースラウテルンの試合結果は5-1でハノーバーの勝ちであった。デクラン・ヒルはこの結果にショックを受けたものの、チンの言うことには疑いを持っていた。するとチンは2006年のワールドカップ(W杯)ドイツ大会で、彼が八百長をする仕事ぶりを見てはどうかと勧めてきたのである。

チンはデクラン・ヒルに、W杯ドイツ大会で行われる試合の内4試合について試合開始前にどのような結果になるかを伝えていた。4試合全てにチンが関わったわけではなかったが、チンと同業の八百長フィクサーから得た情報をデクラン・ヒルに教えたのであった。

事前にチンから得た情報と試合結果は次のようになる。

  1. イタリア対ガーナ:2点差以上でイタリアの勝ち(試合結果:2-0でイタリアの勝ち)
  2. イングランド対エクアドル:2-0でイングランドの勝ち(試合結果:1-0でイングランドの勝ち)
  3. ブラジル対ガーナ:2点差以上でブラジルの勝ち(試合結果:3-0でブラジルの勝ち)
  4. ウクライナ対イタリア:2点差以上でイタリアの勝ち(試合結果:3-0でイタリアの勝ち)

イングランド対エクアドル戦を除いては、チンの言った通りの結果になった。イングランドの試合に関しては、イングランドの状態が悪すぎてゴールができなかったという事情がある。勝ち負けで考えると4試合ともチンの情報通りになった。得点差を考慮しても4試合の内3試合が事前の情報通りである。これは果たして偶然なのであろうか。

ブラジル対ガーナに関しては、八百長を仕組まなくても同じ結果ではないかと思うかもしれないが、偶然性を排するのが八百長フィクサーの仕事であり、確実にガーナが負けるように仕組んだのである。

 

八百長に汚されるスポーツ界

「黒いワールドカップ」では、主にサッカー界の八百長について取り上げているが、著者のデクラン・ヒルは他の競技でも八百長は起こり得るとし、イントロダクションで次のように述べている。

 

内在する犯罪構造が、サッカーだけに見られるものではないことに気が付いた。方法や手口、動機を鑑みれば、アイスホッケーや野球、バスケットボールなど、ほぼすべてのチームスポーツにも当てはまる。その類似性を示すために、他のスポーツに見られる例も挙げた。八百長フィクサーがサッカーの試合を買収するためにどう工作しているかを知れば、バスケットボールのリーグやクリケットのトーナメント、あるいはテニスのマッチ(ちなみにフィクサーはこれらのスポーツにも接近していた)に、彼らがどう入り込んでいくのか分かるだろう。

 

八百長フィクサーの仕事はサッカーばかりではないのである。

「黒いワールドカップ」は非常に読み応えのある本である。興味のある方は一読をおすすめする。

今年のワールドカップはどうなのであろうか?チンのような八百長フィクサーが暗躍する大会になるのであろうか?しかし、八百長に汚されたスポーツは、いづれ衰退していくだろう。