日本でお岩さんと言えば「四谷怪談」に出てくる幽霊として有名である。タイにも有名な怪談、あるいは幽霊の話がいくつかある。その内の1つが「メー・ナーク・プラカノン(แม่นากพระโขนง)」だ。
お岩さんとメー・ナークはどちらも実在した人物で、その話の内容は事実に基づいているとされている。タイで有名なホラー「メー・ナーク・プラカノン」について紹介してみたい。
怪談「メー・ナーク・プラカノン」
メー・ナーク・プラカノンとは?
「メー(แม่)」はタイ語で「お母さん」という意味であるが、ここでは当時タイで使われていた女性に対する敬称である。そして「プラカノン(พระโขนง)」は地名で、現在はBTSの駅名にもなっている。
つまり「メー・ナーク・プラカノン」は「プラカノンに住むナーク婦人」、あるいは簡単に「プラカノンに住むナークさん」という意味だ。
このナークさんが幽霊になるという話がメー・ナーク・プラカノンである。
メー・ナーク・プラカノンの「ナーク」という女性の名前の表記であるが、「นาก」という表記が正しいとされている。しかし、「นาค」もかなり使用されており、2つの表記が混在している。
ストーリー
とあるタイ人にメー・ナーク・プラカノンのストーリーを簡単に説明してもらった。
ある所に若い夫婦がいた。妻(メー・ナーク)は赤ん坊を身ごもったが、夫は出兵のために家を離れなければならなくなった。
夫が出兵中、妻は赤ん坊を出産したが、難産のため妻も赤ん坊も亡くなってしまった。
そのため成仏できない妻は幽霊となり、夫の前に現れた。
ざっとこのようなストーリーである。
しかし、タイ人に聞いても「メー・ナーク・プラカノン」のことは知っていても、詳しいことになるとあやふやな人も多い。日本人も四谷怪談を詳細に覚えている人は少ないだろう。タイ人も同様である。
メー・ナーク・プラカノンのストーリーを現代風にしてアニメ化したのが下の動画である。タイ語が分からなくても、見ていれば何となく分かるのではないだろうか。
メー・ナークを題材にした映画やドラマ
メー・ナーク・プラカノンについては、映画やドラマが何度もリメイクされている。
しかし、やはり何らかの怨念があるのか、メー・ナークのテレビドラマの撮影中、女優が水牛から落下し負傷したという事故が起きている。
【メー・ナーク撮影中に事故】
四谷怪談でも映画関係者に同様の事故が起こっているが、こんな点もメー・ナークとお岩さんはそっくりだ。
メー・ナークを祀るお寺
BTSプラカノン駅からタクシーで
メー・ナークを祀ったお寺がプラカノンにある。ワット・マハーブット(วัดมหาบุศย์)という寺だ。最寄駅はBTSのオンヌット(อ่อนนุช)である。
オンヌット駅から無理をすれば歩けない距離でもないが、往路はタクシーに乗ることをおすすめする。細い路地を通って行くので、道に迷う可能性もあるからだ。
オンヌットからタクシーに乗るとプラカノン方面に進んでからUターンするので、行きはBTSのプラカノンから乗り、帰りはオンヌットまで行く方が便利だろう。
タクシーの運転手に「メー・ナーク・プラカノン」と告げると分かってくれる。もしかしたら運転手が
「怖くないの?」
と聞いてくるかもしれない。
「ちょっとだけね」とでも答えておけばいい。
現在は都市化してしまったプラカノン周辺だが、多少昔の下町の雰囲気が漂う路地を走って行くとワット・マハーブットがある。
メー・ナーク・プラカノンを祀った一角へ
ワット・マハーブットはきれいな寺で参拝客も多い。このワット・マハーブットの敷地を奥に進むとメー・ナーク・プラカノンを祀った一角(ศาลแม่นาคพระโขนง)がある。
最初に目にするのはメー・ナークの肖像画だ。
メー・ナーク・プラカノンを祀った場所に着くと結構な人混みである。タイ人は幽霊を怖がる人が多いが、怖いもの好きも多い。
金色のメー・ナーク
建物の奥にメー・ナークが祀られている。そこには金色のメー・ナークの人形がある。
金色の人形はちょっと不気味である。メー・ナークの人形はミイラではないかと疑い、後日タイの知人に聞いたところ、ミイラではなく人形だということだ。
それにしても、見ると背中がぞくっとしてしまう人形である。
建物内ではメー・ナークにお供えするための花輪や子供のおもちゃなどが売られている。参拝客のほとんどが、何かしらのお供え物を購入しているようだ。
メー・ナークの人形の回りには肖像画や服、子供のおもちゃなどが供えられている。
メー・ナークが祀られている場所の様子は、下記の動画を見ると分かりやすい。
【ศาลแม่นาคพระโขนง วัดมหาบุศย์】
供養の後は近くの池でタンブン
メー・ナークを祀っている建物の前にタンブン(喜捨をし、徳を積むこと)用の魚などの生き物を売っている店がある。すぐ横の小さな川が流れており、店で買った動物を川に放つのである。
店では売られているのは魚だけではない。亀やカニも売っている。しかし、亀は値が張りそうだ。
バケツの中にはカエルもいたりと、タンブンを行う者のニーズに合わせ、多彩な生き物が売られている。
通常はパンくずなどを買い、鳥や魚にやる。お金ではなく気持ちが大切なのである。
メー・ナークを供養した後は、タイ人に混ざってタンブンをしてみよう。タイの子供たちも楽しそうだ。
タイ人にとってのメー・ナーク
メー・ナーク・プラカノンが事実かどうかは分からない。しかし、少なくともバンコクの人々の多くはメー・ナークの話は本当だと信じているようだ。
メー・ナーク・プラカノンの名前の部分である「ナーク」を地名にしている地区もある。ムエタイで有名なラチャダムヌン・スタジアムの南東にシー・イェーク・マハー・ナーク地区(แขวงสี่แยกมหานาค)があるが、この「ナーク」はメー・ナークに由来すると言われている。
地名に「ナーク」とつけるのもメー・ナークの話を信じ、彼女の霊を静めるための1つの供養なのかもしれない。
【ワット・マハーブットの地図】