北海道の十勝にタウシュベツ川橋梁という橋がある。戦時中の物資運搬用に旧国鉄が造った橋である。
その後、電力発電ために人造湖である糠平(ぬかびら)湖が造られるのだが、当初はタウシュベツ川橋梁を取り壊す予定であった。
しかし、この橋を残しておいてもダム湖として影響はないという理由で取り壊しは中止となった。また、それには予算がなかったという理由もある。
タウシュベツ川橋梁の魅力
電力発電のためのダム湖である糠平湖は春から秋にかけて水を蓄えていく。そのためタウシュベツ川橋梁も春から秋にかけ徐々に水没していく。
しかし、自然のことであるから日によって糠平湖の水が多かったり少なかったりもする。そのため、日々タウシュベツ川橋梁の姿は違うのである。
現在は観光スポットとなっているタウシュベツ川橋梁であるが、補修や修繕は一切されていない。元々取り壊すものであったというのも理由の一つだが、定期的に水没してしまうので補修や修繕自体が困難なことが主な理由である。
タウシュベツ川橋梁は北海道遺産に指定されてはいるが、前々から人気の観光スポットとだったわけではない。この橋が人気となったきっかけは、JRが作ったフルムーンのキャンペーン用のポスターだった。このキャンペーン以降、かなり辺境な地にあるタウシュベツ川橋梁にスポットライトが当たったわけである。
このままタウシュベツ川橋梁が補修も修繕もされなければ、数百年かけてなくなっていくのであろう。補修や修繕を重ね、その原形を残していくことが必ずしも良いこととは限らない。朽ちてゆき、いずれはなくなってしまうからこそ美しいものもある。これは、さくらは散るからこそ美しいというのと同じである。
タウシュベツ川橋梁見学はひがし大雪自然ガイドセンターの見学ツアーに参加するのが便利
タウシュベツ川橋梁まで車で行けるのか?
タウシュベツ川橋梁の最寄りの都市は帯広市である。
帯広からタウシュベツ川橋梁まで、車で1時間半から2時間かかる。ただし、車でタウシュベツ川橋梁まで行くことはおすすめしない。途中から事前に許可されていない車両は通行できない道があるからである。この道には鉄製の門があり、鍵がかけられている。しかも道といっても林道であり、かなり道幅が狭い。
この車両の通行を止める門の所に車を止め、タウシュベツ川橋梁まで歩いて行けるが、これもおすすめではない。まず、そこは駐車禁止である。また、距離的には4Kmと歩けない距離ではないのだが、その一帯は熊出没地域だからである。
ひがし大雪自然ガイドセンターの見学ツアーがおすすめ
糠平温泉に宿泊し、タウシュベツ川橋梁の見学を考えているなら、「ひがし大雪自然ガイドセンター」が毎日催行している見学ツアーに参加するのが便利である。
季節ごとに数種のツアーがあるので、好みのツアーに参加すればよい。
運転手を兼任するベテランのガイドさんが同行するので、タウシュベツ川橋梁に関する話を聞くことができる。同時に、この地域についての様々な話も聞けるので、かなりおすすめなツアーである。
また、時期によっては長靴が必要な時もあるが、長靴のレンタル代もツアー料金に含まれている。
タウシュベツ川橋梁をじっくり見たい場合は早朝のツアーを
ひがし大雪自然ガイドセンターが催行するツアーには、タウシュベツ川橋梁だけではなく他の旧国鉄の橋も巡るツアーがあるが、タウシュベツ川橋梁だけをじっくり見たい場合は、早朝に出発するツアーがおすすめである。
早朝のツアーをおすすめする理由として、タウシュベツ川橋梁だけを見学するので、時間的に十分な見学時間が取れるということと、糠平湖に水が張っている場合、湖面にタウシュベツ川橋梁が映るが、湖面が波を立てず比較的安定するのは早朝だからである。湖面が安定しているとタウシュベツ川橋梁が湖面にきれいに映る。これを見れば「早起きして良かった!」と思うに違いない。
早朝タウシュベツ橋ツアーの様子
ひがし大雪自然ガイドセンターの文化ホールに集合
早朝タウシュベツ橋ツアーの出発は5時半である。
糠平温泉の観光地図などを見ると広々としているように見えるが、実際はこじんまりとしたエリアである。糠平温泉のメインの通りにあるホテル(いわゆる「ぬかびら源泉郷」とよばれるエリアの中心部)に宿泊するなら、ツアー参加者の集合場所はどのホテルからでも歩いてすぐの所にある。
文化ホールについたら受付を済ませ、ツアー料金を支払う。そして、センターのガイドさんに足のサイズを伝え、自分に合う長靴を貸してもらい、その場で履き替える。履いてきた靴は文化ホール内に置いておく。
長靴を履き替えたらミニバンに乗り込み、タウシュベツ川橋梁へ出発、という段取りだ。
タウシュベツ川橋梁への道のり
ひがし大雪自然ガイドセンターを出発したミニバンはしばらく舗装された道を走る。この間、ガイドさんがいろいろと話をしてくれる。その後、通行が制限された未舗装の林道を走る。
ミニバンで走行中、運が良ければというよりは、かなりの高確率で車窓から鹿やキツネを見ることができる。もっと運が良ければ熊を見ることができるかもしれない。
林道を約4Km走った所で車を降りることになる。ここからは足場の悪いぬかるんだ道を歩くことになる。長靴をはく理由が、ここで分かることだろう。
このような道を数百メートル歩くと、ついにタウシュベツ川橋梁がその姿を現す。
糠平湖の水が少なければ、下に降りることができる。その際も石だらけの傾斜という足場の悪いところなので、できるだけガイドさんに付いて行った方がいい。
糠平湖、もう1つの楽しみ
糠平湖にはタウシュベツ川橋梁の他にもう1つ楽しみがある。
それは木の切り株である。
糠平湖を造る際に自生していた木は引き抜かず、伐採しただけなので湖底には切り株が残っている。湖の水が引ける時期はその切り株を目にすることができるのだ。よく腐らずに残っているなと思うが、少し離れてそれらの切り株を見ると、まるで古代遺跡を思わせるような風景が広がっている。
タウシュベツ川橋梁を見に来るリピーターには切り株を見る方が楽しみという人もいるということだ。
タウシュベツ川橋梁へ行くなら、この切り株群も見逃せないだろう。
ツアーに参加するなら、あらかじめ予約を
ひがし大雪自然ガイドセンターでは、季節にあったツアーを催行しており、季節ごとに違ったタウシュベツ川橋梁を楽しむことができる。
ツアーに参加する場合は、下記のNPOひがし大雪自然ガイドセンターのウェブサイトから予約できるので、特に連休や夏休みなどに参加を予定している場合は、早めに予約しておいた方がいいだろう。
タウシュベツ川橋梁を撮り続ける写真家
タウシュベツ川橋梁の写真を撮るために移住してしまった人がいる。写真家の岩崎量示氏である。
岩崎氏はタウシュベツ川橋梁の写真集を出版したいと思っていたそうだが、無名の写真家だったためスポンサーが付かず、出版するお金もなかった。
そこで彼はクラウドファンディングで利用し、写真集を出版するためのお金を集めた。そして、思った以上にお金が集まったので、当初予定していた部数よりも多くの部数の写真集を自費出版したのである。
この写真集はミニバンの中でガイドさんから見せてもらったが素晴らしい写真が満載であった。
下記の岩崎氏のウェブサイトでも、彼の撮影した写真の一部を見ることができる。
なめていたらすごかった!入場料無料のひがし大雪自然館
ぬかびら温泉郷からの観光はタウシュベツ川橋梁だけではない。「ひがし大雪自然館」という大雪山国立公園の東大雪地域の生きものなどを展示しているというビジターセンターも見逃せない観光スポットだ。
ぬかびら温泉郷のホテルや旅館が集まっている場所は狭いエリアであり、建物が密集しているわけではないので、迷うことなくたどり着くことができる。このひがし大雪自然館が予想をはるかに超える充実ぶりなのである。
バスを待つ間、ひがし大雪自然館へ
もしバスでぬかびら温泉郷から帯広に戻るとなると、バスの本数はそれほど多くはない。バスが来るまで時間があるなら、ひがし大雪自然館を訪れるといいだろう。
ひがし大雪自然館はログハウスのようなおしゃれな建物である。しかし、「中はたいしたことないんだろう」と思いながら中へ入ると期待はいい意味で裏切られる。
無料とは思えないほど充実した展示物
ひがし大雪自然館の中に入ると動物の剥製の展示されていたが、展示の仕方がとても素晴らしいのだ。空間をぜいたくに使い、熊やエゾシカ、クマタカなどの剥製が躍動感があるように展示されているのである。
ログハウス調の建物の天窓から入ってくる光も開放感を感じさせ、うまく作られているなと感心してしまう。これで入館料は無料なのだから驚きである。
蝶やカブトムシなどの昆虫類の展示も豊富
剥製が展示されている広い空間を抜け、奥に進むと昆虫類が展示されている。ここでは蝶の美しさに目を奪われることだろう。また、カブトムシなどが展示されており、中にはかなり大きなものもある。昆虫類の展示は豊富であり、昆虫が好きなら見学に時間がかかるかもしれない。
昆虫類の展示の一角の近くには、エゾシカの角を含めた頭部の展示などもある。
観光案内所も併設
ひがし大雪自然館では観光案内所が併設されている。東大雪を観光するなら寄ってみるといいだろう。ここではお土産なども販売している。
また、観光案内所の隣に休憩スペースが設けられており、このエリアではwifiが使用できるので非常に便利だ。来館者は多くはないので、ゆっくりとくつろげるスペースである。ぬかびら温泉郷は宿を出てしまうと落ち着ける場所がないので、このようなスペースは非常に貴重だ。
動物の足跡を見逃すな!
館内の展示物の他、ひがし大雪自然館にはもう1つ見どころがある。自然館の近くの歩道に動物の足跡があるのだ。
これは、ぬかびら温泉郷の主要施設を案内する役割があるのだが、ひがし大雪自然館はそのような施設の1つである。そのため自然館の周辺の歩道では、動物たちの足跡を容易に見つけることができる。
ボリュームのある食事が嬉しい。ぬかびら温泉郷の「ペンション森のふくろう」
早朝のタウシュベツ川橋梁の見学ツアーに参加するには、朝早く糠平温泉文化ホールに集合するため、ぬかびら温泉郷に宿泊した方が便利である。
ぬかびら温泉郷といわれる一帯は狭いエリアなので、どこに宿泊しても糠平温泉文化ホールへ行くのに支障はないが、そのエリアにある「ペンション森のふくろう」を紹介してみたい。
トイレ、風呂は共用のペンション
ペンション森のふくろうは、その名の通りペンションであり、トイレや風呂は共用となる。そのため部屋にはテーブルくらいしかない。風呂に関しては近くのホテルと提携しているようで、そのホテルの温泉も利用できる。
トイレと風呂が共用というのは苦手という人もいるかもしれない。何となく煩わしさを感じてしまうので、トイレや風呂もプライベートな空間にあった方がいいという場合には、このペンションはおすすめできない。
ただ、ぬかびら温泉郷には夕方到着し、翌朝タウシュベツ川橋梁を見学して帯広に戻るという予定なら、宿での滞在時間は短く、ほとんど食って寝るだけ。そんなわけで糠平温泉文化ホールに最も近い森のふくろうも選択肢の一つにしてもいいのではないだろうか。
ペンション森のふくろうは、部屋のタイプが和室、洋室を含め何種類かある。部屋には風呂に入る際に使用するタオルや浴衣が用意されている。
おいしくて、ボリューム満点の食事
森のふくろうにチェックインの際、希望する夕食の時間を聞かれる。食事は1階の食堂で取ることになるが、夕食の時間に食堂に行くと夕食の準備が整っている。この食事がボリュームがあり、おいしいのだ。
料理は和洋折衷で何皿か運ばれてくるが、それに合わせて調理をしているようだ。釜に入ったご飯も出てくるが、それに手を付けられないほどの料理が出てくる。この場合は夜食用におにぎりにしてもらうといいだろう。
朝食も同様である。早朝のタウシュベツ川橋梁の見学ツアーに参加すると、ツアー終了後に朝食となるが、お腹がすいているのでとてもおいしい。トイレや風呂が共用という煩わしさを吹き飛ばすほど、森のふくろうの食事には満足するだろう。
ぬかびら温泉郷に来て、タウシュベツ川橋梁を見ないで帰るのはもったいない
ぬかびら温泉郷に泊まりに来る人は、ほとんどがタウシュベツ川橋梁を見に行くのかと思っていたら、どうやらそうでもないらしい。
森のふくろうに宿泊していた方で、女将さんにすすめられて午後のタウシュベツ川橋梁の見学ツアーに参加することにした人たちもいた。「ここまで来て、タウシュベツの橋を見ないで帰っちゃうの?」と驚いてしまうが、糠平温泉だけを楽しむために来る人も多いようだ。
しかし、遠方からぬかびら温泉郷へ行くなら、タウシュベツ川橋梁を見ずに帰るなんてもったいないなあと思うのである。
いつまで見れるのか分からない幻想的なタウシュベツ川橋梁は必ず訪れるべき名所である。